悠帆さん × かごや職人
対談 : 職人どうしが共感するもの作り

かご作家・悠帆さん 中国の工房へ行く

かごやの自社工房を見てみたい

  • 以前からの知り合いだったかのようになごやか

  • 工房の職人さんたちとも技術交流

  • 独自の編み方やコツなどをレクチャー

  • 竹の棒に木型をセットして回しながら編む方法に感心

  • お互いに共感しきりの対談でした

「かごや」の商品のなかでも、人気の高いかごを作っている作家・悠帆(ゆうはん)さん。
かねてから「かごやの自社工房を見てみたい」と云っていた悠帆さんと、かごやの自社工房(中国・福建省)へ行ってきました。
工房を見てまわり、職人さんたちと打ちとけたところで、工房の中心的な職人王(ワン)さんとかご作り対談です。

・プロフィール

かご作家/悠帆(ゆうはん)さん

「かご作りが天職」と自負する日本屈指のかご作家。材料の採取から編みまで、一人でこなす。こぶ付きのかごなど、モダンな作風も人気。

かごや職人/王(ワン)さん

工房の中でも腕利きの職人さん。高い技術を必要とする編みや、試作品作りなどを手がける。新人の技術指導もするリーダー的存在。

もの作りが身近な環境に育つ

かご編みが「当たり前」としてあった幼少時代

大きな窓から陽が差し込む工房でインタビュー

店長:おふたりは、どうしてかご職人の道へ?

悠帆さん:兄姉もかごを編んでいましたし、叔父がかご作りの名人でね。
昔は、かご、笠(かさ)、蓑(みの)、縄(なわ)とか、冬の農閑期に内職としてみんながやっていて、自分たちで使うものを手作りするのが当たり前。
もの作りは人間の基本だし、文化の始まりですよね。
子供の頃は、夕飯を食べ終わったらお手伝い。親父が一緒に作業しながら、むかし話をしてくれるのが楽しかったなぁ。

王さん:私の田舎は竹製品作りが盛んで、お小遣いになればと思って、14歳くらいから編み始めました。16歳から職人として本格的に修行をはじめて。若い頃は、編めば編むほど、上達していくのが楽しかったです。

自然素材の味を生かし、上手に付き合うかご作り

節・こぶ付きのかごを編む

店長:かごを編む“ひご”にする樹皮は、節や裂け目があったり、曲がりくねっていたり、クセもさまざま。自然素材をあつかううえで、工夫しているところを教えてください。

悠帆さん:“やまぶどう”でも“あけび”でも、ひとつとして同じものがないんです。でも、まっすぐじゃなくて、曲がっているからこそ、個性があって面白い。曲がっているところはみだれ編みに、まっすぐなところは網代編みに、節があるところは節のかごにと、編み方を分けていますよ。

王さん:いろいろとクセがあって色味や模様も違いますし、それが面白いですよね。私も曲がっているものは、あえてみだれ編みに使っています。

店長:悠帆さんのかごで、節でできているかごがありますよね。

悠帆さんの節・こぶ付きのかごをみながら

王さん:(悠帆さんの節・こぶ付きのかごをみながら…)迫力があって素敵ですね。どうして、節だけを使ったかごを思いついたのですか。

悠帆さん:以前は節を捨ててしまっていたけど、表情が独特で面白くって。どれひとつとっても、同じものはないし、できるだけ素材の良さを活かしたかごを作りたいと思ったんだ。

腕を磨く楽しさ、もの作りのよろこび

まだ見ぬ新しいかごを求めて

店長:かご作りのカタチやデザインで気を付けていることはありますか?

王さん:カーブがあるかごは、膨らみ方が難しいので、美しい仕上がりになるよう、全体のバランスをみながら編んでいます。
あと、花編みは、すごく力が要るんです。ひごを足すときも、花の大きさが、あまり変わらないように、なるべくひごを薄く削いで足しています。

王さんの花編みのかご

悠帆さん:ひごを足すところは、ひごが二重になって、どうしても厚くなっちゃうからね。
花編みは時間かかるし、かごの側面を立ち上げるまでが大変。
(王さんの花編みのかごをみて)
上手だね。こんなに編める人は、なかなかいないよ。
取手の巻きも、すごくきれい。取手の芯作りは力がいるよね。
かご作りは、取手とふち編みが肝なんです。ここがきれいにできているのが良いかごの証拠。
私は、取手の巻きを、なるべく隙間なくぴったり巻くことと、両方の太さが同じになるように気をつけていますよ。

店長:新しいデザイン・編みに挑戦するときなど、どのように勉強されているのですか?

ゆっくりと考える…王さん

試しに編んでみる…悠帆さん

王さん:デザイン画と編みの見本など細部まで観察して、ゆっくりと考えます。
それから、ちょっと試しに編んでみます。
じっくりと、丁寧に。
どうすれば美しく仕上がるか、問題点がでてきたら、どうやったら解決するかを考えながら。
真剣に向き合わないとできないです。
気が抜けません。

悠帆さん:ファッション誌や(名人の)叔父の作ったかごをみて研究もしてるけど、やっぱり試しに編んでみる。
やってみたほうが早いときもあるし、それでダメなら、また作ればいい。
試行錯誤するうちに、いままでになかった新しいかごが生まれるんです。

店長:図を描いたり、計算したりとかはされないのですか。

王さん:型によっては、計算することもありますが、基本的なところは全部、頭の中に入っています。

悠帆さん:私も頭の中に入っていますよ。

店長:入っているんですか。驚きました。かご編みは、出来上がるまでたくさんの工程がありますし、ひとつひとつが手作業だから、今までの経験と感覚が重要なのですね。

すべては大切に使ってくれるお客さまのために

店長:かごを編んでいて良かったなと思うことは?

悠帆さん:お客さんが喜んでくれることと、かごを通じていろんな人に出会えるのがうれしい。今回は、こうして、かごやの職人さんたちにも会いに来れたしね。

店長:悠帆さんは、かご編みの職人さんに限らず、いろいろな職人さんの工房を訪ねていますよね。

悠帆さん:もっと良いものを作りたくて。職人の技術を見るのは楽しいし、かご作りに役立つことなら、何でも知りたくて。

王さん:私も、お客さまに喜んでいただけると嬉しいです。あと、難しいかごが出来上がったとき、「良かった」と思います。ここ出来ないな、大変だなと編んでいって、自分のイメージ通りに完成したとき、それまでの苦労の全部が感動に変わるんです。

悠帆さん:かご作りは、難しければ難しいほど、面白いよね。

長年使い込んでツヤのでたかご

王さん:他には、修理で帰ってきたかごがツヤツヤに育っていると嬉しいです。
お客さまに感謝ですね。(ツヤのでたかごをみて)使い方がとても丁寧ですね。自分が作ったかごが大切にされていて、幸せです。

悠帆さん:味わいのあるいいツヤだね。かごは、その人なりの使い方でツヤや雰囲気が出るから、そこが楽しいね。

少し編んでもらいました

花編みをひとつ編んでもらっていいですか

王さんの手元…ぎゅっと

悠帆さんの手元…やっぱりぎゅっと

手を動かしながら話が盛り上がる

店長:お二人で、花編みをひとつ編んでもらっていいですか。 (悠帆さんと王さん、あっと言う間に花編みを編み上げました)

店長:やっぱり、ぎゅっと力を入れて編みこまないといけないのですか?

悠帆さん;乾くと緩むから、できるだけぎゅっと力を入れて編みます。

王さん:よく引っ張って、きつく締める必要がありますね。

悠帆さん:(王さんの花編みをみて)かごやさんのかごを見ていて、上手い職人さんたちなんだろうなぁと常々思っていたけど、実際、編むところをみると、みなさん、手早(方言で「仕事ができる」という褒め言葉)だね。経験を積んだ職人さんたちばかりだ。私も教えてもらいたいくらいですよ。

王さん:いえ、そんなことはないです。悠帆さんの方がお上手です。悠帆さんは、花編み以外で、変わった編みはされますか?

悠帆さん:木漏れ日編みはやったことあるよ。王さんは、編み始め、どうしてる?

王さん:底を編んで、編み物のようにぐるぐる回りながら編んでいます。

悠帆さん:(かごを指して)ここには芯を入れている?

王さん:硬いひごが入っていて…

(この後、かごの製作方法や普段の道具など技術や伝統の話からかごのファッション性や流行などいつまでも話題は尽きず盛り上がりました。)

楽しいひと時でした

職人の手から手へとつながるかご編みの技を次世代へ

悠帆さんと王さんの花編み

初めて会ったとは思えないほど、打ちとけた雰囲気だった悠帆さんと王さん。きっと、同じ職人さん同士、波長がぴたりと合ったのでしょう。
今回の対談で実感したのは、お二人とも、探究心が強く、職人としての信念を持っていること。あの美しいかごが生まれてくるのは、経験の長さだけでなく、技術を磨き続けているからなのですね。
日本は高齢化もあり、かご編みの職人さんがとても少なくなっています。これは、世界的に同じ状況のようです。一度絶えてしまうと、復活させることがむずかしい手仕事の技術。今回の技術交流を通して、大切に伝えられてきた技をつなげていく新たな可能性が広がったように感じました。
かごや店長 阿部里海