失われつつあるかご編みの手わざ
材料採りから、ひご作り、編み作業と、とても手間のかかる編みの仕事は、そのすべてを人の手で行います。熟練の技術と根気のいる手仕事だけに、職人もそう多くはいないのが現状です。
器用な手を持ち、コツコツていねいな仕事をしてくれる職人はどこかにいないものか? 探しているなかで出会ったのが、中国・福建省の人々。きめ細かな工芸品が昔からつくられ、手仕事の文化がいまも根付く地域です。かごやはここに自社工房を開きました。いまから30年以上も前の話です。
かごは、古くからつくられている生活道具です。
かつては、農家の人が冬の農閑期に、収穫用の作物を入れるかごや、野菜を洗うざるなどをつくっていました。いまは農家と兼業している人、「職人」として専念している人がいますが、徐々に作り手が減ってきています。
手間暇のかかるかご編み作業。後継者が見つからず、やむなく廃業というところも少なくないのです。
自社工房のようす
「福建省推奨」烏龍茶のパッケージに大きく記された言葉を、見たことがある方も多いのでははいでしょうか?中国・福建省といえば、烏龍茶の産地として有名ですが、実は昔から手工芸の盛んな地域でもあるのです。
美しい竹細工、繊細な石彫りなどが、今でも作られています。「当たり前のもの」として手仕事の物や技術が根付くこの地には、真面目で熱心な人柄の人々が暮らしています。
自社工房でまず行ったのは、この地に根付く竹編みの技術を応用しながら、日本式のかご編みの技術を教え、一人前の職人を育てることでした。
ひとつのかごができるまでの工程はいくつもあり、それらすべての工程を一人ひとりに教え、美しいかごがつくれる職人さんになってもらうのです。
工房では管理スタッフが、できたかごを細かくチェック。編み目がきれいにそろっているか?形が歪んでいないか?毎回厳しい検品を行い、チェックを経たものだけを、「かごや」の商品としてお届けしています。
工房は、とても明るく開放的。かごの工房というと、材料や道具などが所狭しと並ぶ風景を想像しますが、ここはすっきり広々。大きい窓から日差しがたっぷり降り注ぎ、ゆったりとしています。
職人は、やまぶどうなどのかごバッグを編む職人、竹製品をつくる職人と、扱う素材で担当が分かれています。みな、子どものころから生活用品を手作りする環境に育っているので、手先がとても器用で勘がいい。長年、かご編みの技術を磨いているおかげで、正確さと速さは確か。工房見学にきた日本の職人さんが、「これはすごい」と感心するくらいです。
木型・道具・材料
かごを編むときは、オリジナルの木型を使います。工房にある木型は約200個。ひとつの型でも素材や編み方を変えて作ると、最終的なかごの種類は驚くほどの数になります。
多種多様なかごを編めるのは、長い時間をかけて「編む」ことに、じっくり向き合ってきた「かごや」だからこそ。
主な素材は、やまぶどう、くるみ、竹、あけびなど。ほとんどの材料(竹以外)が希少で、年々手に入りにくくなっています。材料が手に入らないときなどは、生産中止になることも。かごやは、自然の恵みに感謝し、無駄なく大切に使う努力をしています。
かご編みのスタートは、まずひご作りから。
山で採れたつるや樹皮は湿ってとても重い状態。天日に当ててよく乾燥させます。
それから、水に浸して柔らかくして、ひご状に切りそろえていきます。
硬く、厚さも長さもマチマチで、専用の道具で削ったり切ったりするのは、根気のいる作業。職人さんたちは「編むよりも、ひご作りのほうが何倍も大変」と口を揃えます。
竹は、長さ2〜3mあるものをナタで細かく割り、削いでひごにしていきます。ざるや弁当箱で使うには、何回もこの作業が必要となります。
編み・仕上げ
編み目の多彩さが、自慢のひとつ。
シンプルでどんな服にも合わせやすい網代編み、太いひごで躍動感ある仕上がりのみだれ編み、6枚のひごを組み合わせて花の形を作っていく花編み、四角い形が連なった石畳編みなど、十数種の編み方があります。
経験を重ねた技術の高い職人が後輩に難しい編み法を指導し、みんなで協力しあって技術を磨いています。
暮らしのなかで大活躍なのが竹製のもの。
市場かごや弁当箱は、細いもので3mmほどのひごを、木型を使わず、定規で測りながら編み上げていきます。
特に細いひごは、ちょっとした力加減で割れてしまうので細心の注意が必要。ひごの感触を確かめながらの作業は、高度で繊細な技が要求されます。
かごが編みあがったからといって完成ではありません。仕上げをきちんとしてこそ、美しいかごが出来上がります。
自然素材から生まれたかごは、ケバがたくさん。ケバをバーナーで焼き、表面が滑らかになるようにたわしで磨きます。それでも残っているケバは小さなはさみでカット。最後まで丁寧な作業が続きます。
アフターフォロー
蔓や樹木の皮を使用し丹念に編みこまれたかごは、一生ものです。使うほどにツヤが出て、美しいあめ色に変化していくのも、自然素材ならではの楽しみ。自分のかごに育てていけば、愛着も増していきます。
使っていくうちに取手が外れたり、角に穴があいたときは、熟練の職人が最善を尽くして対応します。修理ができるかごは、末長く付き合っていける大切なパートナーになります。
職人さんたちはこんな人
女性の職人が多い「かごや」の工房。 作業中はみな黙々とかご作りにいそしんでいますが、昼休みになると、話し声でにぎやかになります。
お弁当が中心で、おかゆとおかずを持ってくる人、野菜たっぷりの炊き込みごはんを持ってくる人など、食の豊かさがうかがえます。
食事中のおしゃべりも、昨夜観たTVドラマの話、子どもの進学、次の休みの計画など。職人同士の楽しい交流が伺えます。
店長からみなさまへ
店長愛用の"やまぶどうかご"
父である社長が初めて中国に渡って、もうすぐ半世紀近く経ちます。当時、地方の田舎を日本人が訪れるのは、めずらしかった時代。
その頃のアルバムを開くと村の人々が集落を揚げて、歓迎してくれている様子が伺えます。みんなの目もきらきらしています。
今回、工房で集合して撮った写真も皆、とても良い顔をしていて、子供の頃にみたあの写真を思い出しました。
あれから数十年。幼い頃から親の手伝いをし、竹かごを編んでいた子供たちが成長して、今、工房の担い手となっています。
そして私も、同世代の職人さんが編んだかごをこうして手にしています。
今も、車で少し奥にはいると、数十年前の日本の田舎町の風景が広がりますが、日本と同じく時代は移り変わり、この後を引き継ぐ職人さんも少なくなっています。
もとは、家内職として始まったかご編み。日本も中国も、個々では、ある日途絶えてしまう危機にあります。
この伝統の技術を組織だからこその強みを活かし、次の世代へ繋いでいきます。
かごや店長 阿部里海